和田誠 映画監督/イラストレーター/グラフィックデザイナー|インタビュー
監督・脚本を手掛けた映画「真夜中まで」公開直前インタビュー
今回の映画はジャズをテーマに
「麻雀放浪記」以来、4作目になりますが、今回はジャズマンを描いた映画を作りたかったんです。僕はジャズが好きだし、ジャズの友だちもたくさんいる。彼らがライヴハウスで演奏している姿を見たり、休憩時間に話しをするのも面白い。そんな経験がいろいろあるので、ステージだけではなく、彼らのプライベートな時間も描きつつ、娯楽映画になるような脚本を書きました。
映画と上映時間の経過が同時進行で
「真夜中まで」というタイトルの通り、真夜中前後の110分間の話なので、映画の物語と進行時間をぴったりあわせて作ろうと考えました。頭の中でたえず1時間50分を想定してシナリオを書くんです。映画では時間の進行を表すために、ときどき時計を撮るんですが、それをどういうふうに挟むか、実際に編集してみると1、2分ずれてしまうんですね。普通はクランクアップすると撮影はそれでおしまいなんだけれど、今回は編集し終わってから時計だけを撮りに行ったんです。
https://scrapbox.io/files/642661ed05452f001c72e99f.jpeg https://scrapbox.io/files/642661f5f040cb001c74f2a8.jpeg
https://scrapbox.io/files/642662005325f2001c1c6304.jpeg https://scrapbox.io/files/6426620901ee0d001b426681.jpeg
タイムリミット・ストーリー
真田(広之)くんの演じる主人公はジャズ・トランペッター。自分のクインテットを率いてライヴハウスで演奏して、次のステージまでの休憩時間に、新曲の練習のため屋上にあがるんです。そして戻ろうとすると鍵がこわれて入れない。しかたなく非常階段を使ってビルの裏に降りると、そこに事件が待ち構えていて。でも次のステージまでにはどうしても帰らなきゃならない。その日はたまたま憧れの大物ミュージシャンが、ニューヨークから自分の演奏を聴きに来ているのに、事件に巻き込まれてなかなか戻れない、というタイムリミットものなんです。そして彼はどんなときも絶対にトランペットを離さないで大事にしているお話です。
猛練習したトランペット
トランペットの指って難しいんですが、彼の練習ぶりがすごいんですよ。どんどんうまくなっていってね。映画では本当に彼が演奏しているとしか見えないはずです。トランペッターの五十嵐一生さんに真田くんを特訓してもらったんですが、まず五十嵐さんと真田くんと一緒にトランペットを買いにいってもらったのを手始めに、演奏する曲を全てテープに吹き込んで、その指の動きを覚えていって……。彼は本当に役になりきっているし、指だけではなくて、息の継ぎ方とか、その時の背中の微妙な揺れやのどの動きなど、実に見事なんですね。実際に音も出る様になって、映画の中で2ケ所くらい真田くん自身が吹いた音が出ています。
ちょっとずつの出演も豪華なキャスト陣
カメオ出演(友情出演)ていうんですが、(大竹しのぶ、唐沢寿明、三谷幸喜、もたいまさこ、柴田りえらが出演)脚本を書きながらね、この役はほんの一瞬しか出ないんだけど、あの人がやってくれたらいいだろうなって思うんですね。そうするといかにもその人らしいセリフを書いていたりするんです。引き受けてくれるかどうかはわからないんですけど。それでとりあえずあたってみると、スケジュールがあえばやってもらえて。
撮影の苦労はタイムリミットとの戦い
一番の苦労は物語と同じでタイムリミットでしたね。この直後に、真田くんはイギリスに渡ってロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと「リア王」の舞台が待っていた。彼はそれをシェイクスピア英語でやらなきゃならないからその練習が控えてる。だからこっちの撮影がおしてはまずいわけですね。運悪くこの頃ちょうど梅雨どきで、全編夜のシーンの撮影なんですから明るくなるまでに雨もやませて撮影しなきゃならない(笑)。
「月の砂漠」が大事なエレメント
ジャズクラブに来ていた客の女性が日本の童謡である「月の砂漠」をリクエストしちゃうんです。最初、主人公は「俺はジャズマンなんだからそんな曲はやらないよ」ってつっぱねるんだけど、1時間50分の様々な出来事の後で、戻ってきた彼はそれをやりたい気持ちになるんですね。で、それをさせる日本の曲はなんだろうっていろいろ考えて「月の砂漠」を選びました。
「真夜中まで」の見どころ
この映画の見どころはいっぱいあって、なんといってもジャズがメインなんですが、真田くんが久々にアクションをやっていることや、一人の男の心の変化っていうことも描いているし、スリルもあるしユーモアもある。涙もある。僕らがずっと観てきた映画の楽しさっていうのは、西部劇だって撃ち合いばかりじゃない。恋があり、笑いもあり、涙もあり、歌もある。一つの作品の中にいろんな要素がある。それが娯楽映画だったんですよね。近ごろそういう映画が少なくなっているような気がして、この作品にはいろんな要素を入れようと思いました。ジャズファンにはジャズを楽しんでもらえるはずだし、ジャズが初めての人にはジャズの良さがわかってもらえると思う。そのほかのいろいろな要素も楽しんでもらえると思います。観てください。
https://scrapbox.io/files/64265f7b85b9fa001b8228cd.jpeg
1936年生まれ。多摩美術大学卒業。グラフィックデザイナー、イラストレーター。『お楽しみはこれからだ』、『銀座界隈ドキドキの日々』、『装丁物語』などの著書のほか、映画監督として「麻雀放浪記」、「真夜中まで」など4本の作品がある。